決戦はVALENTINE

                                                                                (side 英二)




今年もこの日がやってくる、嬉しいような、嬉しくないような、そんな複雑な一日。


お菓子好きの俺にしてみれば、たくさんチョコを貰えて嬉しい・・・

だけど俺が貰うって事は、アイツも貰うって事で・・・



リビングのソファに寝そべって去年のバレンタインを思い出していた。

去年はまだ付き合ってなかったし・・・あんまり深く考えてなくて、不二とどっちがたくさん貰えるか?って勝手に競争したりして

その為にクラスの女子に宣伝までしてさ、たくさん貰って、それを大石に自慢したら『へ〜やっぱり英二は凄いな』って言いながら

顔は笑ってなくて、俺、不味い事したかなって・・・気にしたのに・・・アイツ・・・・

後ろ手に持ってた紙袋隠しやがって・・・

それに気付いて俺が『大石も貰ってんじゃん。隠すなよ』って大石から取り上げた袋には、どう見ても・・・本命チョコの山。

チョコ+α・・・手紙付きもしくはプレゼント。

なにもれなく付いてんだよ・・・

思わず見たまま固まってたら、複雑な顔のままの大石が



「英二の方が多いよ」



って・・・そういう問題じゃない。

何だ・・・この体の奧からメラメラ湧き上がる感情は・・・

イライラ・・・?イヤ・・・むしろムカムカ・・・か?



「何こんなに貰ってんだよ!!」

「だから・・・英二の方が多いって・・・」



困ってる大石を見ながら、自分でも理不尽だなぁ・・・とは思う。

けど・・・なんか腹が立ってきた。

俺のはどう見ても、義理チョコ。

しかも俺が不二に勝ちたくて、クラスの女子に頼んだ正真正銘の義理チョコ。

中には、手紙付きやプレゼント付きってのもあるけど・・・

だけどそんなのは、全体の一割程度で・・・

何なんだこの大石の本命チョコの割合は・・・

大石ってこんなにモテてたのか・・・?

確かに大石は優しいし、気が利くし、頭いいし、それに顔もいい・・・

まぁ俺が惚れただけの事はあるな。

って・・・何納得してんだよ俺。

それにそんな事を思ってる場合じゃないじゃないか・・・

もし大石がこの中の誰かと付き合ったりしたら・・・どうするんだ?

そんなの俺、堪えらんない・・・



まさかバレンタインにこんな落とし穴があるなんて・・・


それから一ヶ月。結局大石は誰とも付き合わず、全員断ったみたいだったけど、俺はその間眠れない日々を過ごしたんだ。

去年はホント油断していた。
















「英二〜。これ混ぜてくれない」



ちい姉に声をかけられて、起き上がって振り向くと生クリームの入ったボールを渡された。



「今年も作んの?」

「もちろん!」



そう言ってキッチンに戻るちい姉と交代にちい兄がリビングに入ってきた。



「英二もか?」



ちい兄はチョコレートの入ったボールをテーブルの上に置いて、俺の横に座った。



「ちい兄も頼まれたの?」

「あぁ。ホントよくやるよなぁ〜」



ボソボソと小声で話をしてたのに、キッチンから姉ちゃんの声が飛んできた。



「ソコ!!グダグダ言わない!!しっかり手を動かす!!」

「ほ〜い」



小さく返事して、ちい兄と目を合わせる。

ちい兄も黙って、チョコレートを湯煎し始めた。

ホント姉ちゃんとちい姉がタッグを組むと、俺達男兄弟は太刀打ち出来ない。

去年も何だかんだと手伝わされた。

流石に一番上の兄ちゃんには、姉ちゃん達も頼まないけど・・・

俺とちい兄は言われるままいつも手伝わされる。

まぁ手伝った後には、お礼と称して必ず俺達にもおこぼれがあるんだけど・・・

それはそれで嬉しかったりするんだけど・・・

やっぱりさぁ〜こうやって混ぜてたりすると、大石の本命チョコを思い出すわけだ。

今年も大石の事思いながら、チョコ作ってる奴いるんだろ〜なぁ・・・なんて・・・



「コラッ。英二。手止まってるよ」



コツンと頭を叩かれて、見上げるとちい姉が立っていた。



「しっかりしてよ。これは戦いの為の準備なんだから」

「戦いの為の準備?」

「そうよ。本命を落とす為の戦い。バレンタインは女の戦場よ!」



右手で握り拳を作りながら力説するちい姉に圧倒されながら・・・

確かに・・・バレンタインの時の女子は凄いなって納得した。



「まぁ貰う側の英二には、わかんないかもしんないけどね。とにかくそういう事だから しっかり手伝ってよ!」



俺の頭をグシャグシャとなぜて、キッチンに戻るちい姉の後ろ姿を見ながら考える。

確かに俺は貰う側だけど、本命を落とす戦いってのはちゃんとわかってんだぞ!

俺だってちゃんと本命がいるんだ!!

だけど男がこの時期にチョコを買うなんて恥ずかしくて出来ないじゃんか・・・・・買う?

そっか・・・買う必要はないんだ! 買わなくてもあるじゃんか!

俺は生クリームの入ったボールを抱えて、キッチンに駆け寄った。



「ねぇねぇ。この材料って、まだたくさんある?」

「あるけど。どうして?」



姉ちゃんがチョコを刻むのを止めて、俺の方へ振り向く。



「俺も作りたいんだけど」

「英二の分も一緒に作ってるよ?」

「そうじゃなくて、あげたい奴がいんの!」



そう言うと、隣で聞いていたちい姉が話しに割り込んできた。



「英二が?誰にあげんの?」

「別にいいじゃん!誰にあげても!女からしかあげちゃいけないって決まりでもあんのか?」

「決まりはないけど、教えてくれてもいいじゃない!」

「だから・・誰でもいいじゃん!」



ギャーギャーとちい姉と言い争ってると、姉ちゃんが止めに入ってきた。



「もう止めなさい!材料はたくさんあるんだから!ケンカするなら二人とも作らせないよ!」

「「 はーい・・・ 」」



姉ちゃんの一言でちい姉も黙って作業に戻っていく。

流石にちい姉も姉ちゃんには、敵わない。



「じゃあ英二も今から、渡す側としてしっかり作りなさい」



姉ちゃんからお許しの言葉を貰って、俺は元気に返事した。



「ほい!!ほ〜い!!」



へへっ!これで俺もバレンタインに参戦だ!!

明日一番に部室に行って、誰よりも先に大石に俺のを渡すんだ!!

女子には絶対負けらんないもんね〜〜!!

見てろよ大石!! 俺の本気見せてやるからな!!





英二はいつも思いつきで動くタイプ・・・そしていつも一人で盛り上がって大石を巻き込む。


って私がそうなるように書いてるんですけどね(笑)


ではではそんな二人に暫くお付き合いを・・・(残り5ページ)